瀬戸内を旅し、過去が足元から立ち上がってくる瞬間がありました。
大三島の「大山祇(おおやまづみ)神社」の森の深みに触れたとき、そして「今治市村上海賊ミュージアム」の窓から能島を見つめたとき、私の中で“物語”と“史実”がゆっくり重なっていくのを感じました。
村上海賊の当主・村上武吉――小説『村上海賊の娘』『海狼伝』『秀吉と武吉』の3点を読み、私はそこで出会った彼が、実際に生きた海を前にした時、ページの中の波音が現実の潮騒と混ざり合って聞こえてくるようでした。
今回は、私が旅の中で出会った武吉の影と3小説の魅力、そして実際に訪れた土地の空気を重ねながら、瀬戸内の“武吉をめぐる旅”をご紹介します。そして「しまなみ海道」で私が食した美味い処も少しだけご紹介します。

大山祇神社で立ち止まる――森の静けさに、武吉の影を探す

しまなみ海道の大三島インターチェンジから車で走ること10分。
駐車場に車を停め、大山祇神社の鳥居をくぐった瞬間、時間の重みが少し違って思える感覚がありました。
森が深く、音が吸い込まれていきます。
たくさんの旅人を迎えてきたであろう古い神社は、古来日本総鎮守として尊称されていました。山の神であると同時に大海原の神、渡航の神とされていました。

その意味で、海の男、村上武吉がかつてこの神社で連歌の宴を開いたという記述が残されているのも納得がいきます。同時に、「海の武将」という粗削りなイメージとは裏腹に、彼が文化と教養を備えた人物だったことが、驚きとともに胸に迫ります。
「武吉は、ここにいた」
その確かな実感が、奥行きを持って感じられました。
能島を前にすると、物語が立ち上がる――潮の流れに武吉の息づかいを見る

しまなみ海道、車で本州方面から大島北ICで降りて約3km、四国方面から大島南ICで降りて約10kmに「今村市村上海賊ミュージアム」があります。
大山祇神社の静けさとは対照的に、そこは村上海賊の記憶の宝庫、空気が一気に動き出します。
眼前に能島が見えます。
瀬戸内海は穏やかだと言われますが、能島の周囲は潮流の難所と言われ、海の要害となっています。そのため、能島は戦国時代に瀬戸内海で最強を誇った能島村上水軍の本拠地となっていました。
これまで読んできた『村上海賊の娘』や『海狼伝』での能島の描写が、一瞬で立体化する感じがします。
小説の中の海が、現実の海と重なり合い、輪郭を変えながら私の中で混ざり合います。
ミュージアム前には能島上陸&潮流クルーズの乗船場所がありました。残念ながら旅の時間の関係で、私は能島に渡ることはできませんでした。ただ、ミュージアムの窓から能島を眺めると、その近さ故か、海賊と呼ばれた船乗り達の跋扈する姿がすぐそこに見えるようでした。
観光地としての整備が進んだ今も、武吉の時代の緊張感が、どこかまだ海の底に沈んだまま残っているように思えます。

三つの小説に見る“武吉”――翻弄され、抗い、海に帰った男
私が読んだ
『村上海賊の娘』村上竜 著
『海狼伝』白石一郎 著
『秀吉と武吉』城山三郎 著
この三作品は、同じ武吉を描きながらも、驚くほど違う方向から光を当てています。
『村上海賊の娘』。
武吉は“誇り高い当主”として、娘・景を通して描かれています。
3作品の中で一番エンタメ性が高い『村上海賊の娘』は、武吉の娘、「景」の凄まじい迄のアクションシーンが圧巻です。もし、映画化されるとしたら、景を演じる女優は誰がふさわしいだろう?そう思い巡らしてみるのも楽しいものです。
『村上海賊の娘』の「景」は、萩藩譜録という資料に唯一、村上武吉に「娘」がいたことが書かれているそうです。他の系図には娘のことは書かれていないらしく、ロマンが広がります。
いずれにしても「景」が演じる派手な戦闘シーンがこれでもかとある一方で、逆に武吉の判断の厳かさ、海を背負う責任の重さが一層際立って伝わってくる物語でした。
一方、『海狼伝』。
武吉は、彼自身が前面に立って活躍する物語ではありません。ある青年「笛太郎」の成長と冒険を物語の中心に据えながら、武吉抜きに青年の成長はあり得ない、そんな物語になっています。
また、「能島小金吾」という男が出てきます。武吉の家来ではないのですが、村上海賊の兵糧と弾薬、船材の買い付けなどを行う「能島小金吾」と武吉の絶妙な距離感が魅力的です。それは小金吾と笛太郎との関係にも通じています。
海と生きる男、強い武吉像という意味では、『海狼伝』が一番強烈な印象を与えます。
そして『秀吉と武吉』。
この作品は、武吉という人物の晩年を深く掘り下げ、秀吉との関係に焦点を当てています。
武吉は秀吉の海賊停止令によって能島を去り、最終的に屋代島へ移り住むことになります。
この移住は単なる「場所の移動」ではなく、武吉にとって“海の支配者から一人の老武将へ戻る”ような、静かな終焉といえます。
屋代島に移った武吉は、慶長9年(1604年)に69歳で亡くなります。
その結末を知ったうえで能島の海を見ると、胸の奥に波が一度大きく打ち寄せて、静かに引いていくような感覚を覚えます。
強く、賢く、時に翻弄されながらも生き抜いた男。
この三つの作品を読むと、その武吉像がゆっくり立体化し、私の中で一人の“生身の人間”として息をし始めました。

物語と海が混ざる旅へ 次は武吉終焉の地、屋代島(周防大島)へ行く
瀬戸内の海を眺めていると、歴史が海霧のように漂っていて、ふと目の前に昔の影が立つ瞬間を感じます。
大山祇神社の静けさも、能島の鋭い潮流も、すべてが武吉の物語につながっています。
その一つひとつを歩きながら確かめていく旅は、ただ知識を増やすものではなく、物語を深呼吸するようなものでした。
私は近く、武吉が最後に辿り着いた場所、屋代島を訪れる予定です。
能島での激しさとはうって変わった、静かな海風の中で、武吉は何を思ったのか――それを確かめに屋代島に行ってみたいと思います。
番外編 因島の『はっさく大福』、生口島の『蛸飯』が素敵に旨い

1️⃣因島にある「はっさく屋」、店の看板名物『はっさく大福』を食べました。
因島発祥の八朔(はっさく)の果肉を白あんとみかん餅の食感のバランスが絶妙で、とてもジューシーで旨い。大福を購入すると無料でコーヒーがいただけました。しまなみ海道サイクリストが沢山立ち寄る場所ともなっています。

2️⃣生口島にある「ちどり亭」、店の名物料理『蛸飯』をいただきました。
生口島・瀬戸田の耕三寺前にある食事処です。
生口島の二大特産品「蛸」と「レモン」を生かした蛸飯やレモン鍋も。
私は蛸の旨みを生かした『蛸飯』をいただきました。旨い。
昼飯時、大人気の店でした。




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